動物と会話できるお医者さん、ドリトル先生の冒険シリーズの第10作に当たります。
ノアの大洪水の話など日本人にあまりなじみのない聖書からのお話が出てきますが、キリスト教の知識が十分でなくとも楽しめる物語りとなっているので問題ありません。
人間ではなく「動物の視点」から語られる大洪水のエピソードはなかなか痛快です。
ドリトル先生と秘密の湖を読書した感想について
聖書に登場する「ノアの箱舟」の物語りは有名なものですが、「動物の視点」から語られると今までのイメージが覆ります。
立派な人物とされるノアも亀という動物から見ればつまらない人物としか映らないようです。
ノアについてのドロンコの意見はまるで出来の悪い上司に対する会社員の愚痴のようでもあって大人の読者がちょっと笑えるところです。
大人の読者ならこのポイントが面白いのですが、聖書の知識のない小学生が読んだとしたら壮大な冒険エピソードとしてなかなか面白いものがあると思います。
とりあえず宗教の知識は関係なくひとつの冒険物語として楽しむといいでしょう。
洪水後の世界の様子やドロンコ達が救出した人間の少年少女を世話するためにかつての都を求めて深い海に潜る場面などワクワクする描写がいっぱいです。
建物の様子や洪水後に動物たちがどんどん「復興」していく様子や同じ動物であっても肉食・草食間で確執があったりとまるで現代の世界を見るようでもあります。
本当は世界のリーダーになって思いのままにしたいメストラの悪だくみなど「あ、こんな人いるわ」なんて思えるくらいです。
それを見抜いてきっぱりと「信用できない」とばっさりと言い放つドロンコはさすがに「年の功」と言ったところでしょうか。
箱舟で大洪水を逃れた動物たちが「いっそのこと人間のいない世界を創ろう」としてドロンコ達が助けた人間の少年少女を殺そうとする場面があります。
ドロンコと仲間の機転で救われるのですが、これから彼らは生き残ることができるのだろうか・自分だったらどうするだろうと思える場面でもありました。
この部分のエピソードはちょっと気の弱いお子さんなら怖くなるかもしれないなと思ったりしますが、でも描写に刺激的な生々しさはないので心配はないでしょう。
物語り全般を通して伝わってくるのは外側のイメージだけで相手を判断することの愚かしさ、傲慢になることへの警告です。
まるで作者はこの世界には自分と違うから間違っている・自分と違うから劣っているという考えは通用しないということを動物たちを通して語り掛けているかのようです。
それでいてお説教臭さを感じさせる部分はありません。
ドリトル先生シリーズ作中で一番作品が書かれた当時の世界情勢の影響がが感じられる作品でもあると思います。
ドリトル先生と秘密の湖のあらすじについて
ドリトル先生はロンドンスズメのチープサイドから亀のドロンコが住んでいるアフリカのジュンガニーカ湖の小島が崩れ、生き埋めになっているかもしれないと聞きます。
ノアの箱舟の生き残りでもあり友達でもあるドロンコを救うため先生と助手トミー、家族の動物たちはアフリカへ旅だつのです。
以前に先生が歯の治療をしてあげたワニのジムやその仲間たちの助けもあってドロンコ救出を果たしたドリトルファミリー。
救出されたドロンコは先生の求めに応じて自分が体験した「大洪水」とその後の世界の物語りを語り始めます。
ドリトル先生と秘密の湖の登場人物について
登場人物についてご紹介します。
- ドリトル先生 動物の言葉がわかるお医者さん
- トミー・スタンビズ ドリトル先生の弟子であり助手である少年
- ポリネシア ドリトル先生に動物の言葉を教えた年齢180歳のベテラン船乗りオウム
- ジップ ドリトル家の番犬でもある賢くて勇敢な犬
- チープサイド ロンドンスズメでけんかっ早くて口は悪いが機転の利くスズメ
- 大亀ドロンコ アフリカ奥地の湖に住む巨大なリクガメ ノアの箱舟に乗った生き証人
- ジム 以前先生が歯の治療をしてあげたワニ
対象年齢やどんな人におすすめ?
小学校3年生から高学年向け
登場キャラクターや大洪水のエピソードにからめて「差別」や「自分だけが特別」と考えることの愚かしさなど幼い子供達にも何かしら感じてもらえるものがあります。
クラスの友人関係などで悩むこともそろそろ多くなる年齢の子供達に物語りを通して考えるきっかけになるのではないか、と思うからです。
どんな人におすすめ?
特定の動物だけでなくとにかくなんでも動物が好き・英国好きという人なら年齢を問わずおススメです。
将来動物と働ける仕事をしてみたいと思うお子さんや英語を勉強していて原書の前にお話を日本語訳で読んでおきたいという場合にもお勧めします。
まとめ
聖書にまつわるエピソードが絡んできたり歴史的な出来事を思わせる部分があったりとドリトル先生シリーズの中でも難し目の作品ではないかという感じもします。
でもそれらの知識が全く無くとも「ドリトル先生と仲間たちのもうひとつの冒険談」「動物が語る世界史物語り」として面白く読める作品です。